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<フライヤー表紙>
劇団猫のホテル公演
千葉雅子


中村まこと、森田ガンツ、市川しんぺー、佐藤真弓、池田鉄洋、村上 航、いけだしん、岩本靖輝、菅原永二、千葉雅子/松重 豊

本多劇場 06/08/02〜06
本多劇場 06/08/02・06

とある企業から派遣されてきた男・山際(中村まこと)の業務は、漁師町浦安の漁師に漁業権を放棄させる事。海を埋め立て、教育施設や宅地を開発する・いわゆる「町の発展」が目的だ。
山際が説得しなければならない浦安の漁業組合いは二つあり、ベテラン漁師を中心として古くからの歴史を持つ板倉(市川しんぺー)が組合長を務めている「第一漁業組合」と、最近若者を中心に作られ大塚(
菅原永二)が組合長を務める「新漁業組合」。この二つの組合は元は1つだったのに、分裂し、仲たがいりしていた。
読み書きもままならない「新漁業組合」の大塚は、代筆屋と称して最近この町に越して来た豊富な知識を持つ風祭(松重豊)を頼りに漁業権を放棄する方針を固め、その意思を書面にまとめて貰った。その書面を手にした山際。残すは「第一漁業組合」の説得のみとなり、この町にしばらく滞在することにしたが・・・。
何かを探るような山際。過去の記憶が走馬灯のように浮かんでは消えて行く。
組合長の妻・富江(佐藤真弓)に言い寄るゴロツキ風の名越(池田鉄洋)、かつてこの町でいくつもの作品を書き上げた山本(村上航)、新漁業組合員心のオアシスである小岩のスナックのママ・りえ子(千葉雅子)。この小さな漁師町で、複雑に絡み合うヒトとヒトとのエゴ。それはとても根深く、そして切ないものだった。
※敬称総べて略

公演後、『電界』はさらに多くの事を語りかけてきた。舞台上では、ストーリーの決着を観ているのに、私の中では更に掘り下げられたそれぞれの役の心情やバックグラウンドが嵐のように押し寄せて、色々な想いが渦を巻いた。観終わっても「深く残る」。そんなお芝居でした。
その深さを出したのは「人間臭さ」。色々な男女の組み合わせと、色々な種類の「大人の事情」が重なり、織込まれ、人間のエゴというか、ダークサイドというのか、情・金・欲が水面下で激しくぶつかり合っているのに、何処か信頼・希望という単語が最後に小さく顔を出す。それぞれが、(泥臭過ぎはしないけれど)必死に生きている姿に、胸苦しくもなり、切なくもなった。それでも、始終そんな胸苦しさで埋め尽くされた舞台ではなく、食堂のおさげの娘(市川)が妙にかわいらしかったり、山際がビールを毒きりの様に豪快に噴いたり、幕間にシジミ剥きのおばあちゃん(佐藤・岩本・いけだ)が出て来たり、回想シーンでソレっぽい組長(池田)と組合員(市川・菅原)が山際達に酒を進めてたり、刑事(村上)は顔を見せるだけで笑えたり、濃いキャラが笑いをどんどんと挟んでいき、気持ちに適度な緩みと可笑しさを出してくれた。
メイン主人公の山際と風祭は、ぶつかり合いつつもあったけれど、ラストでは崩れる家々を眺める為に客席に降り、最前列と舞台との間で、静かに沈んでいき、暗転した・・・。「2人はコンビだ」と、崩す事のできない、とてもしっかりと組まれた友情を訴えてきた。
『猫のホテル』は、女性である千葉さんが書く繊細で豪快な脚本に、男女問わずに色の違う役をこなす役者陣の力と、男性陣の力溢れるパワーが組み合わさっている。それで迫力あるシーンが多々あるけれど、今回は特に、終盤潰れてそのまま放置されている旅館で大塚と名越がケンカ(殺し合い?)をし、ソレを力づくで漁師達に止められるという2人のぶつかり合いは、ぞれが必死に自分の意思を貫こうとする力がめちゃめちゃ漲っていた。この迫力は本物に近かった。
ホント、凄い深いんだよなぁ〜、脚本。

ストーリーのはじまりは、緞帳の前で、1本のマイクの前に立つスーツ姿の山際(中村)と風祭(松重)の、漫才。最前列の客席に話し掛けてみたり、歌を唄ってみたり「これこそ漫才!!」という、こてこてなネタを披露して、会場の笑いを誘う。しかしオチの部分で2人は噛み合わず、お互いの不満が顔を出し、熱く見つめあいながら沈黙する。この2人の根底に流れる濁流は、エピローグそのもの。
セットは非常に高低差のあるモノで、舞台の中央の床がメインとなり、その周囲を囲むように組まれていて、漁港に伸びている漁村の裏路地が一続きになっているイメージ。下手側から、舞台の奥に向かって10段程度の階段があって、途中で踊り場的狭いスペースが設けられた正面の壁面には横開きのドアが取り付けられ、上手に向かう方に水路を越える橋がかかっている。その先の上手側にはちょと広めのスペースと、防火用グッズが入っていそうな木の箱が取り付けられていた。上手側のこの広いスペースは、舞台床平面に設置された貨物列車の荷台のような箱の屋根部分で、横開きの扉がついてる。この扉から人が出入りできる、そんな大きさ。このセット全体の色は下の方がブルーで、上に行くにつれ白くなってゆく、ペンキ風のペイント。劇中は照明の色がとても綺麗に出ていた。最小限のセットは最大限のイマジネーションを呼び起こし、それぞれの位置は様々なシーンや空間に変わる。シンプルなセットとは逆に、役設定は濃密だった。
メインで動いているのは、風祭・山際・板倉(市川)・富江(佐藤)という、ベテランの貫禄と確かさを持った面々で、比較的、シリアスな部分が多かった。実際年齢と劇中年齢がほぼ一致していたのも、真実味を増した1つに見えた。その他の大塚(菅原)、名越(池田)、山本(村上)は笑いの部分が多く、キャラも「面白い」という方向で独特。
山際と風祭は、俗に言う「汚い金」を儲けにしている企業の社員で、山際が強引なタイプらなば、風祭は温厚で受け身なタイプ。
山際は表向きに漁業権の放棄の話し合いを求められ、別の業務も言い渡されている。それは、裏金を持ち逃げし、連絡が取れなくなった同社の斉藤を見つけだすこと。漁師達は人探しをしていると勘ぐって、こぞってその情報を持ち寄ったが、斉藤には辿り着かなかった。
風祭は、漁民に対してもう1つの本当の顔を隠し持っていた。それが、本名の斉藤。漁業権を放棄させる為に、漁民が混乱するように手引きをしていた。「汚い金」で家族を養う事が嫌になり、裏金を持って失踪したが、その事について山際が斉藤の妻に詰め寄った。裏金について何も知らない妻は後日、会社の屋上から飛び下り自殺を測る。その事実を斉藤は静かに受け止めていた。
板倉は漁業組合の組合長をして威勢は良いモノの、妻の富江が随分前から浮気をしている事を知っていてもその事にずっと目をつぶってきた気弱な一面を持つ。今回、その事実と向き合い、自暴自棄に酒を浴びるように呑み、「生きる」事を選んだ。
富江はなかなか笑わない。人前に顔を出さず、漁民でも富江の顔を知る人が少ない。板倉に過去の浮気が完全にバレてしまい、家を出たいと思うものの結局は出ていく事も出来ず、どうして良いのか判らずにいる。
名越は情報を売って小銭を稼ぐ。そして男のいる女を寝取り、ぐだぐだ言ってきた男を殺す事で総てを完結させる指名手配犯。他の町で5人を殺っている。下半身には正直。
山本は過去この漁村に引越し、自分と富江との関係をモチーフに、富江を主人公にした「おさせ」という小説を書く。そしてまた、この町にフラッと立ち寄る。
大塚は風祭を頼りにする、とても純朴な青年。結婚を約束した彼女を名越に寝取られ逆上し、潰れた旅館跡で命を賭けたケンカをする。
いやぁ〜、振り返ってみても、凄い濃密な面々。

印象的だったのは、組合長の妻・富江に関するシーン。
山際が人探しをしていると思った漁民は、それぞれで「この人ではないか?」と思う人を連れてくるんだけど、その時に林(いけだ)は大きなふろしきを抱えてやってきて、お膳の上でそのふろしきを解いたら、中から富江が出てきた(笑) 客席も、まさか人が包まれていると思っていなかったから、登場した時には「おぉ〜!」と言ってしまう程、ビックリした。しかも、コレで初めて富江ははっきりと顔を見せる。ちょっと控えめな感じで、基のキュートさの中にも憂いや影が感じられる表情と語り口調は、何かを諦めているような、そんな雰囲気がすっごい伝わってきた。あんな可愛い顔して、誰とでも寝てしまうっていうのも特徴的かも。特に忘れられないセリフは、夫の板倉が不在時に書類を持ってやって来た山際に、静まり返った居間で、静かに、じっと山際を見つめながらぽつり、ぽつりと「・・・・・可哀相な人。・・・・飲みたくもないお酒呑んで・・・。」と、同情をしたような、自分の状況と重ね合わせたような寂しい表情と目をしていた。恐い位の静寂の中、凄い間を空けて言った言葉だ。寂しさと、緊張感と、サラリーマンの縮図とでも言うのか、企業戦士の切なさが、このシーンに集約されていたと思う。重かったなぁ。佐藤さんのもう一役のシジミ剥きのおばあちゃんは、富江とは違っていつも笑顔で、すっごいカワイくってキュート。同じ人とは全く思えない位の代わりようだった。
そして池鉄!! 名越と組長は共に、前作の『ウソツキー』の無口なキャラとは違い、いつもの爆裂キャラになっていたようで、、、。名越は初登場時は富江に部屋を追い出されたからパンツ一丁で縦横無尽・その後服を着ても、ズボンだけ脱いで縦横無尽(笑) 服は漁村に相応しくないメロンソーダ色のパンツにショートブーツ。羽織った服は60年代風のちょい都会人。下半身に正直に生きている役柄に、目のやり場に困ったけれど、池鉄パワーは全開。殺人の指名手配犯とバレてしまってからのクールさはカッコ良かった。組長は片足が不自由で杖を突き、真っ黒なスーツに中はサテン系の赤いシャツ。そしてレイバン。階段から降りてくる時には、受け止め役の組員(菅原)に向かって案山子のように、ぴょんぴょんと飛びつつ、勢いづいて落ちて来てた(笑) もう一人の組員は、金のネックレスをじゃらじゃら言わせたチンピラルックの市川で、そのじゃらじゃらしたネックレスに「なんて下品なんだ。下品と鳴け!!」とか激しく罵声を浴びせてた(笑)
炸裂を期待していただけにちょっと残念だったのは、菅原氏。彼らしい挙動不振な部分はありましたが、大塚はフツーの人だった。もう1つの、組合員は殺し屋のような眼光鋭い16才で、山際に水割りを作るのがメイン。眼光鋭く無表情のままグラスにお酒を注ぎ、満杯になりそうでもお構い無しに注ぎ続ける。ソレを見た山際は急いでグラスを手で遮っていたけれど、それすらも気にせずに、更にお酒を注ぎ続けていた。その満杯のグラスに水を入れて「水割り」を作ろうとしてたなぁ・・・(山際はおびえた顔で静かに「(グラス満杯だから水で)割れません」と言ってた)。組長に「食べた事のない料理を出してあげろ」と言われて料理を取りに行く時には、企んだようなニヤリ笑いをしていたり(笑) 16才というのはさておき、悪そう〜なキャラは非常に良く似合う(笑)

「着信音なし・お礼」は、割烹着を着た母役に千葉さん、ネルシャツを着た子供役に市川さん。
市川さんは母がいつも携帯電話を握り締めているのを見て、「出ていった兄さんから連絡が来るのを待っている」と思い、「自分は愛されていない」と感じている想いを母にぶつける。
母は「兄さんだけを愛している訳ではないし、鳴らない携帯電話なんか、小窓がついた只のボタンだ」と言って、携帯を投げ捨てる。
携帯を拾いに行く市川さん。そして、携帯を見る。「電源が入っていないから、鳴らないんだ!!  分別をわきまえれば、携帯の電顕は入れていて良いんだよ?」と母と客席に教え、電源オン。
ピピピッ メールが着信した。それを読む市川さん。
『抱いてやる。○○ホテルで待つ。10万貸してくれ。××(男の名前)』
取り乱す母「きっと混線してるのよぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」と叫びつつ、走り去る。
「メールは混線しないよぉぉぉぉ」と言いつつ、市川さんは母を追い走り去るのであった。

初日は、やっぱりみんな緊張感に包まれていた様に見えた。
一度山際(中村)がセリフの前に「お!」を付けて言ってしまい、一瞬気まずい空気が流れたけれど、すかさずそれを板倉(市川)が「お!ってなんだよ。気合い入れるって事か?!」と拾って、笑いにしてたし、名越(池田)の縦横無尽さも、ちょっと大人しかったかな。
「着信音なし・お礼」では、焦った市川さんがネルシャツのボタンをかけ違えてしまう、ぷちハプニングもありましたが、滞り無く終演。後に千葉さんがもう一度舞台に出て来て下さったんだけど、広い舞台の中央に一人立っているのが耐えられなかったらしく、「ちょっと、一人にしないでぇぇぇぇぇ!!!! みんな出て来てぇぇぇぇぇ!!!!」と、下手にへばりつくようにさがってあたあたされたました(笑) その姿がとてもかわいらしく、劇団員を全員呼んだら、みんな着替え後の姿(笑) 菅原氏はシャワー後の様で、Gパンに上半身裸で、手にはコレから着るであろうTシャツを持ったまま(笑) それを体に合わせて隠してました。

楽日はみんなのびのびなんですわぁ〜。ガチガチした緊張もしていないし、1つ1つの動作にも油乗ってた。
山際が上手側の踊り場の上からビールを毒きりの様に噴くシーンも、量と勢いが良かったし、名越の縦横無尽は、、、超縦横無尽だし(笑) 16才組員の水割り作りも、初日と違ってガンガンにお構い無しでお酒注いでたから山際は手をびしょびしょにしてた。勢いが違った。

劇団旗揚げ16年目にして、初の本多劇場公演。それぞれが客演で、本多の舞台に立つ事はあっても、自分の劇団では初のこと。カーテンコールでは、感慨深い表情を浮かべた面々も多く観られました。

舞台が始って、すっごいビックリ。物語りの舞台は漁師町・浦安だったのです!! それだけでも超・親近感(笑)
初日の私は、最初の漫才の印象がとても強過ぎて、ドコでどう間違ったのか「漫才師が売れなくなって、とある会社の会社員になり、漁業権の放棄をさせる為に浦安に来た」と思い込んでしまった・・・。話しが完全に見えたのは、楽日(汗)
今回の客演は、渋い中にも笑いが取れる松重 豊さん。TBSドコモドラマ「ですよねぇ。」の部長。めちゃめちゃ背が高く、劇中に「うつぼに似てる」と言われて軽くお怒り暴走してました(笑)



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