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<フライヤー表紙>
【「オリガト・プラスティコ」第3弾】

ウディ・アレン 鈴木小百合 
ケラリーノ・サンドロヴィッチ

岡田義徳、高橋一生、伊藤正之 、広岡由里子、町田マリー 、渡辺いっけい

東京公演 9/28〜10/9  大阪公演 10/14-15
名古屋公演 10/12    神奈川公演10/19
福岡公演 10/22     宮崎公演 10/21
東京公演 06/10/05[本多劇場]

1945年のブルックリン。貧しさのあまり絶望と怠惰の空気が漂うアパートの一室に、内気でさえない少年のポール(岡田義徳)は家族と共に生活をしていた。ポールは人前に出るのが苦手だけれど、毎日自室で手品の練習を欠かさない。将来は手品師になれたなら良いなぁと、穏やかに思っていた。
家族は若い愛人ベティ(町田マリー)を囲う父親のマックス(伊藤正之)、不良の弟スティーブ(高橋一生)、生活に嫌気がさしていていつか脱出したいと思っている母親のエニッド(広岡由里子)。父親の稼ぎは殆ど愛人ベティにつぎ込まれ、母親は生活費の足しにでもなればとパートタイマーで働く日々。両親はいつもケンカばかりし、母親はかつてIQテストで高得点を取ったポールに希望と期待の眼差しを向け「あなたは天才なのよ」と繰り返し訴えていてた。
そんなある日、母親は知人のつてで芸能界の大物エージェント:ジェリー(渡辺いっけい)と知り合う。彼女はポールを手品師として芸能界にデビューさせる事を計画し、ポールにジェリーの前で手品を披露するように迫るが、ポールは拒む。しかし、ジェリーはポールに会いにアパートにやってきた。

映画監督として有名なウディ・アレン。そのウディ・アレンが舞台の為に書いたのがこの『漂う電球』。そして「オリガト・プラスティコ」はケラリーノ・サンドロヴィッチと広岡由理子のプロデュース形式ユニット名である。
KERAはこの戯曲をカラーなんだけどセピアのような雰囲気で、とてもノスタルジックに仕上げていた。目の前で繰り広げられている舞台なのに、まるで映画のワンシーンを観ているような、なんとも言えない気持ちの良い感覚。そしてストーリーは日常にあり得る感情と状況。母親である女性のエニッドの気持ちに自然とリンクして、もがき、すがり、焦り、そして八方ふさがりだったのは自分の気持ち次第という事に気付き吹っ切れた瞬間の心持ちにぐっときた。9月に『うす皮一枚』で初めて拝見して興味が沸いた町田マリ−さんに直ぐ会えたのもかなり嬉しいし、その他脇を固めた役者陣もかなりどっしりとしていて、本当に存在する家庭にお邪魔してしまった気分であった。観にいって本当に良かったなって、思っている。

セットは本多の舞台を目一杯使い、天井まで続くアパートの壁は古いレンガ造りで、この家族の部屋の中だけ見えるように作られていた。その部屋は、ステージ下手にリビング、中央がそれに続くダイニング、中央の奥に玄関ドアとキッチンの出入り口。ダイニングの上手(右側)に部屋サイズの高さの壁があり、壁には夫婦の寝室のドアと、下手の子供部屋へ続くドアがあった。子供部屋はリビング等と同じく見えるようになっていて、兄弟のベッドが1台づつ置いてある。
主だったハナシはリビングとダイニングで繰り広げられ、リビングにはカウチソファーとテーブルが置かれ、ダイニングには家族4人が座ったら目一杯という小さいダイニングテーブル。どの家具もとてもシンプル・・・というよりは、質素で飾り気が全く無いものだった。奥に覗くキッチンも、棚に置かれた食材や冷蔵庫らしきものがチラリと見え、生活臭が漂う。作り込まれた、" 作られた印象の残らないセット " って、凄い。
広岡さんはいつもの独特なペースとけだるい空気を醸し出し、『脳内DISCO』でのコントをするキュートな姿と同じ空気なんだけれど、その印象は全然違って見えた。現在の状況をどうにか打開したいともがくエニッドそのもので、私は安心して、無防備であるけれど自分自身の気持ちをまるまる預け寄り添えた。
「私には家族がある」「女性ではなく母親である」という、諦めというか、決めつけというか。その考えから来るもどかしさを抱く姿が自然すぎたんだわねー。芝居に見えないの(笑) リアルリアル(笑) しかも、エニッドという人格は私にも通じる考え方があったものだから、納得しながら観れたんだと思うんだよなぁ。「あんな状況だったら、私もきっともがいてもがいて、自分がいるポジションを変える発想をせずに周囲に変えてもらおうとしただろうな」とか、「自分を女性として見てくれる人が存在するのは最大の突破口だよね」とか。ワタシのこの発言もリアルリアル(笑)
あ、あと。多分、このサイトに来られている方がいらしたら、ポール役で「木更津キャッツアイ」に出演していた岡田義徳くんの方が名前判るのかな?
そのポールは手品が大好きだけど人前が苦手、、、というか対人恐怖症位、家族と話す時も酷くどもってしまい自分でもそのどもりがもどかしくて仕方なく、学校に行かずに大好きな手品用品店に通う少年で、活発さのかけらも持っていない。イメージと全く違う役でもそれをやってのけていたから、私個人的に興味深い面白さがあった。そして手品!! 本当に手品やってるんですよ。舞台で。客席の目はダイニングで口論している両親に集中しているその時に、子供部屋でひっそり。その手さばきがとても鮮やかだったので、どっちも見たくて困った(笑) いやぁ〜、この演出は面白かったなぁ〜。人々の生活は常に並行で、「人生誰もが主人公」みたいな感じ? 個々のパーソナルにライトが当っている、象徴的なシーンだったと思うのよねー。

人によっては、あまりにも日常的すぎるストーリーに面白味が無いかもしれないけれど、そのあまりにも日常的過ぎるストーリーをいかに自然な作品にするかという事に演劇人の素晴らしさを感じずにはいられない、そんな作品だったと思います。



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