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<フライヤー表紙>
【「カルカル」プロデュース第一回作品】
鈴木おさむ


劇団ひとり、山崎静代(南海キャンディーズ)、町田マリー(毛皮族)、和倉義樹(毛皮族)、村上大樹(拙者ムニエル)、平田敦子

本多劇場 06/09/08〜10
本多劇場 06/09/08

『笑いと恐怖、愛と憎しみ・・・すべてはうす皮一枚。悲しく切ない愛の物語・・・』(フライヤ−より)

とある劇場。掃除会社から派遣されてきた河合愛子(山崎静代)は、心を閉ざしたままいつも黙々と仕事をしていた。最近ピン芸人として舞台に立ち始めた涙男爵こと山崎太一(劇団ひとり)はしきりに愛子に話し掛けるのだが、反応はなかった。それでも日々、太一は様々な事を話しかけ、避けていた愛子はついに言葉を交わすようになった。
いつも自分に話しかけ、近寄ろうとしてくれている太一に、愛子は心を開きはじめる。
「もし、好きな人の嫌な部分を知ったらどうする?」そんな愛子の問いかけに、太一は「見ない振りをする。知らないでも良い事ってあるだろうから」と答えた。
本来の目的がありながらも次第に愛子に惹かれ始めた太一。自身の過去を考えて人を好きにならないようにしてきた愛子。そして、2人を取り巻く様々な人々の感情が渦を巻く。
切なくも美しい、現代版のおとぎばなし。

劇団ひとりが芝居するっていうのが、気になって仕方がなかった。しかも、そのお相手役はあの南海キャンディーズのしずちゃんなのである。ストーリー等を紹介している情報量が少ない中での告知&フライヤーとこのタイトル。文字どおり「なんだか判らないけどギリギリの所の話し、、、だよね?」とだけ想像して東京公演初日の本多に行ってきました。

脚本に込められた数々のメッセージ、脇を固めていた役者陣の実力が、とにかく印象深かった。もちろん、主役の2人も役にベストマッチだ。いつも伏し目がちで人と視線を合わせずに、ぼそぼそと喋る恋愛ベタな愛子とイメージがぴったりなしずちゃんは愛子だったし、好青年なんだけど何かを隠し持っていても納得してしまう知性が出ている太一は劇団ひとり。2人とも特に激しく捻る事もなかったようだ。それぞれの持ち味を活かした脚本であり、キャスティングだった。
主役の2人の名前を耳にしただけでは、なんとなく笑いに溢れたストーリーが連想されるけれど、この舞台のタイトルとフライヤ−の写真通り、リアルでシリアスで「人を想う心とは何か」「人を愛するとはどういうことか」について語られていた。「人」としてのギリギリの選択を迫られた「愛」は、男女間にも存在し、家族間にだって存在している。その形態は様々ではあるよね。
男女間の「愛」については、さりげなく鈴木さんが奥様の大島さんに向けたメッセージが込められているようにも感じて、なんか羨ましかったなぁ〜。
ストーリーはテンポ良く、途中に笑いを挟みつつも、かなりシビアに淡々と進んで行った。
お笑い芸人の山崎太一(劇団ひとり)は、昔の劇団ひとりの芸風そのものの泣きキャラ。谷間が見えるナイスバディーの相沢華子(町田マリー)の胸ばかり見て話す所とか可笑しかった(笑) しかも板慣れしているので、何があっても動じない姿はさすがだなぁと、率直に思う。
愛子(山崎静代)は中学生の時に恋愛絡みで同級生を手にかけてしまい、更正施設に10年入所していた。掃除着はシンプルなシャツとパンツで、その姿のままフィードバックして当時の裁判を再現した時には更正施設の制服に見えて自然に愛子の背中を見る事ができた。その愛子の矯正指導をしていたのが、暖かく包んでくれる法務省更正官の松本(平田敦子)。どんな過去を持っていようと、愛子を「一人の人間」として守ろうとしていた唯一の存在。
それと対極の法務省更正官・上田(村上大樹)は、特殊な心情で更正施設に入所した愛子をサンプルとし、そのサンプル結果を採取する為に実験をし始める。太一の本当の姿は法務省更正官だったのだ!!!
という展開までは面白かったんだけど、ソレ以降はどうしても王道的で分かりやすい展開だったので、私個人的には物足りなかったかな・・・(汗)

それなので、個人的には愛子と太一の恋愛よりも、残された加害者家族の心境を隠す事無く吐露した、姉の相沢華子(を演じた町田マリー)が一番印象深く残っている。
ちなみに、相沢華子というのは、愛子の事件がキッカケで作られた姉の新しい名前・・・と言えば聞こえは良いけれど、、、偽名だった。出所後の愛子に優しく接していたけれど、それまでの自分の存在を捨てて生きて行く事を強いられた姉の叫びは聞くに堪え難く、今でも耳に残っている。愛子にぶちまけた華子の心の悲鳴。マリ−さんの熱演を。
「あんたは、私の事も殺したの!! あの日からお父さんとお母さんは笑わなくなった。人殺しの家だと石を投げられて窓が割れる事もあった。恐くて家から一歩も出られずにひっそりと暮らした・・・。あんたは私から何もかも奪ったのよ!!!」
こんなような一節をぶちまけつつも、愛子が更正できていなかった事を太一から聞かされて
「家族だから・・・私が殺す」
と愛子を辛い苦しみから救ってあげたいと願う愛情溢れる眼差しと語調。
太一に「愛子を一番愛しているのはこの僕です。・・・僕がやります」と告げられ、その気持ちが本物であると感じ、何が愛子にとって一番幸せかも判断した華子。
愛子はとても愛されていた。

現実のニュースで近頃伝えられる、若年者・特に中学生による事件。同級生や家族を手にかけるというニュースを多々耳にし「更正施設に入り、慰謝料の支払いを命ぜられ、両親は必死に働き慰謝料を支払う事になった」とも伝えられる。子供の事件に対し、育てた両親はセットである事は皆認識していると思う。けれど、兄弟・姉妹はどうだろう。
ニュースでは、加害者である少年・少女の心の内や生い立ちや更正についてクローズアップされるが、その事件後の加害者の家族・特に兄妹のについては語られる事はまったくない。それはもちろん、事件を起こした本人ではないからという事も、保護されているからという事も十分分っている。分っているけれど、伝えられない事は、リアルな現実味を届ける事ができない事でもあると思い知らされた。

そして。
1つの出来事に対して、人々の意見は対極のモノが存在し、ぶつかりあう事を改めて実感した。
どちらの立場になるか、どちらの考えに賛同するか。これは、このストーリーの外。現実世界の国家間でも言える。
何を信じるか。何を守るか。
久しぶりに、現実に目を向けさせてくれるお芝居だった。

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本多劇場のロビーには溢れんばかりの花が届けられ、上戸彩ちゃんや奥様の大島さんなど業界の人々も多数来ていた。下北沢ではまず見かけない光景と、送り主の名前。
当日券の発行枚数も多かったのか、客席内の通路という通路は観客で埋め尽くされていた。
劇団ひとり。キてますよ(笑)




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